科研費による研究

レーザー水中LIBS分析のスペクトル変動機構の解明と同時多元計測相関解析による高精度化(基盤研究(B) 代表者 作花)

 レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)は、パルスレーザーで試料を集光照射してプラズマを生成させ、そのプラズマからの原子発光スペクトルにより、試料を構成する元素の定性・定量分析を行う方法である。これまでに、われわれはLIBSを水中の固体試料のその場元素分析に適用できることを示してきたが、定量分析の精度を実用レベルまで向上させるためには、パルス照射ごとのスペクトルの変動(再現性の低さ)を改善することが必要である。本研究では、プラズマの状態を特徴付けるパラメータを発光スペクトルと同時に計測し、スペクトル強度と強く相関しているパラメータを見つけ、そのパラメータの安定性を集中的に改善することで高い分析精度を得ることを目指している。

 これまでに、照射によって生じる気泡の大きさ、生成したプラズマからの全発光強度、および発光スペクトル線強度を同時に計測し、それらのパラメータ間の相関を調べていることを試みている。また、プラズマ中の温度と密度について、理論式から誤差伝播によって得られる変動係数と測定結果を比較することにより、変動の原因を調べる研究を行なっている。これらの研究成果は、随時公表する。

プラズマ水溶液界面における非平衡電気化学的制御のための界面電位差測定法の開発(挑戦的研究(萌芽) 代表者 作花)

  近年、プラズマ中の化学的活性種と水溶液中の溶存種との反応は、ナノ粒子製造などの材料分野、プラズマ照射の化学的作用によるがん治療などの医療分野、あるいは植物成長促進など農業分野を中心に、多方面で研究されている。これは、大気圧下でもイオンあるいは原子や分子の温度が室温程度と低く、電子温度だけが高い大気圧低温プラズマの生成法が確立され、水溶液や生体を熱することなくプラズマと接触させることができるようになったためである。プラズマと水溶液の界面(以降P|W界面)では、界面を通して電流を流し、プラズマ中の電子やイオンを積極的に水溶液に導入することで、さらに多彩な反応(電気化学反応)を誘起できる。しかし、その反応は通常の電気化学では理解し難いことがある。例えば、AuCl4水溶液をプラズマで挟んだP|W(AuCl4aq)|Pという配置で、両側のプラズマ間に直流電流を流しても、二つのP|W界面の水溶液側で共に金ナノ粒子が還元析出する。この挙動は、一方の電極で還元反応、他方で酸化反応が進行するという従来の電気化学の常識では理解できない。この原因は、プラズマの非平衡性にあると考えられる。数万度といった大きな運動エネルギーを持つプラズマ中の電子は、室温の水溶液とは著しく非平衡な状態にあり、界面電子移動反応は平衡をベースにした電気化学では記述できない。このように著しく非平衡な状態にある二相の相界面での反応を研究対象とする電気化学は未踏の学問分野である。

  電気化学反応において非平衡性は界面への印加電位(界面電位差)と平衡電位との差である過電圧で記述される。従来の研究は、プラズマを維持するための電流をそのままP|W界面に流しているため、界面電位差を制御できず、したがって過電圧も制御できない。電気化学の観点からP|W界面反応を理解するためには、まず界面電位差を制御できることが重要である。界面電位差を制御できれば、P|W界面で必要な反応だけを選択的に誘起するという、従来の電圧印加法では不可能であったことが可能になると考えられる。

  本研究では、著しく非平衡なプラズマ相と水溶液相の間の界面(P|W界面)の電気化学を確立するために、P|W界面の界面電位差を測定・制御する方法を開発することを目的としている。

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